新型コロナウイルスで大幅需要減少のANAに貢献しよう 話題の32G搭乗編(ANA407便 羽田―秋田線搭乗記)

搭乗記2020

32Gってなんだ?

今回の秋田ー羽田間の往復は、タイトル通り、新型コロナウイルスで需要が減少している航空便の席埋めに貢献することが主たる目的ではありましたが、もう一つ、ANAの国内線機材として新たに加わったAirbus A320、機種コード「32G」への搭乗も兼ねていました。冒頭ではまずANAのA320について軽くおさらいです。

ANAでは1991年よりA320を運航しており、30年近くに渡って運航が続けられています。既に初期に導入された機体は引退していますが、現在でもエンジンを新しくしたA320neoの導入が続いており、国内線、国際線の両分野で活躍しています。

2020年現在でANAが運航しているA320には3つの仕様が存在します。(※2007年より5年ほど、国際線仕様、A320ceoの110席仕様機も存在しましたが、今回は割愛します)

① 166席仕様機 国内線仕様(A320-211/機種コード:32A)※2020年2月で引退

1991年に初号機が導入されて以降、ANAのA320と言えばこれ!という仕様。3-3の6アブレストが27列と最後列のみ2-2の4アブレストで、オールエコノミーの166席仕様です。基本的に国内線での活躍でしたが、一時期は成田、関西、中部ー仁川線へ投入されていました。リース導入機を除き、90年代半ばまでに全機が導入されたため、2020年2月29日をもってこの仕様の機体は引退してしまいました。(リース導入機は2012年までに引退済み)

② 146席仕様機 国際線仕様(A320-271N/機種コード:32P〈国内線運航時〉)

2016年より導入されたA320neoの仕様。国際線仕様機ということで、前方には8席のビジネスクラスが用意されています。国内線での間合い運用時には、そこがプレミアムクラスとして販売されます。他の国際線仕様機が国内線で運用される場合には、ビジネスクラスも普通席として販売されるため、特異な点とも言えます。国際線仕様機だけあり、ビジネスクラスやギャレーのスペース確保のために座席数は国内線仕様機よりも少なくなっています。

③ 180席仕様機 国内線仕様(A320-214/機種コード:32G)

そしてお待ちかね、「32G」。166席仕様機同様国内線仕様の機体ではありますが、座席数は14席増えています。166席仕様機ですと、28列座席が並べられていましたが、こちらは30列並べられているため、シートピッチは当然狭くなっています。それにしても機種コードの「32G」ってなんとかならなかったのでしょうか、「G」と聞くとあの生物を連想する方が一定数いらっしゃるように思うのですが…(笑)

シートピッチが狭いということは、お客さんを一度に多く運ぶことができるということでもあります。そのようなビジネスモデルを売りにしている航空会社は、そう!ANA!間違えました。LCCで。ご存知のようにこの「32G」は、ANAの傘下にあるLCCのバニラエアから移籍してきたA320をそのままバニラエア時代の仕様で飛ばしているものなのです。

何故、LCCで活躍していた機体を、FSCであるANAが運航しているのかという疑問に関しては、諸説あるようですが、なんといってもANAが抱える機材不足に理由があるようです。787と同様に、ANAがローンチカスタマーとなっていた、初の国産ジェット旅客機である三菱スペースジェットは、当初2013年の導入予定が未だ導入されず、既存の737などの後継として導入を予定している737MAXは、2度の墜落事故により世界中で運航停止となっている状況、2018年には787のエンジントラブルにより、他の飛行機の引退時期を遅らせたりすることで、急場をしのいだことは記憶に新しいです。

ただ、老朽化した飛行機の引退を先延ばしにするのにも限度があります。そこで白羽の矢が立ったのが、バニラエアのA320。丁度2019年10月、共にANAの傘下にあるLCCであるピーチとバニラエアは統合することになっていましたので、その際に一部の機体をバニラエアからANAに移籍させることにより、登場したのがこの「32G」なのです。

「32G」登場の情報が出回ると、賛否両論が散見されましたが百聞は一見に如かず、実際に乗ってみないと分からないこともあります。というわけで、「32G」への搭乗を決めました。

休日とは思えない閑散っぷりの羽田空港

ANA408便で17:00頃羽田空港に到着しました。今回は、飛行機の席を埋めることが目的ですので、すぐに秋田空港へと戻ります。この日の羽田空港は、雨で寒く、天気が良ければデッキで撮影する時間を作っても良かったのですが、今回はパスすることにしました。

新型コロナウイルスで国内線も需要がかなり減少しているということで、国内線の拠点ともいえる羽田空港の出発ロビーは、どのような状況なのか…と気になって第2ターミナルの中央部(マーケットプレイス)3階からその様子を見てみました。

訪れたのは、土曜日の夕方と、普段もそこまで利用者数が多いという時間帯ではありませんが、それでもこの閑散っぷりには驚きました。特に1枚目の写真、ターミナル南側は、20時代の最終便が出発する時間帯のような状況で、自動チェックイン機や自動荷物預け機で様々手続きをしている人の姿も全くないという「異常」な様子が伝わります。

今回搭乗するのは18:15発のANA407便、58番搭乗口からの出発です。普通席の空席は○の表示、他の便も軒並み普通席は空席だらけのようです。この当時も既に国内線で新型コロナウイルスに伴う運休が行われており、この時間帯でも、便数が多い広島線や新千歳線などで欠航便が発生している様子が分かります。

普段とは異なるあれこれ

自動チェックイン機で紙の航空券を発券して、保安検査場を通過しました。前述の通り、自動チェックイン機を利用している方の姿はほとんどなく、地上係員の方が、1台1台画面を丁寧に拭いておられる姿が印象的でした。

このような状況ではありますが、羽田空港の国内線のラウンジは営業中。普通席の機内では飲み物サービスが中止となっていますが、ラウンジでは飲み物のサービスが実施されていました。しかしながら、通常はセルフサービスのところ、スタッフの方がドリンクコーナーにスタンバイし、頼まれたドリンクをその場で手渡すという方式に改められていました。グラスや冷蔵庫、ビールサーバーのボタンなど、不特定多数の方が触れるものも多いため、致し方のない措置であるように思いました。

ラウンジ利用者そのものは少なかったですが、スタッフの方に気を遣って過ごすのも居心地があまりよろしくないように感じ、トイレで手を洗うだけでラウンジを後にしました。いつも綺麗なラウンジのトイレが、一層綺麗に見えたのは言うまでもありません。

ラウンジを出て搭乗口へと向かいます。乗客が少なければ、搭乗口前のコンコースを歩く人の姿も少なく、18時代という出発便ラッシュの時間帯にも関わらず、閑散としている搭乗口も多かったですね。

特に、幹線や高需要ローカル線で使用される60番搭乗口は、全く誰もいませんでした。始発の那覇行きに乗るために、早朝5時から制限エリア内に入った時やギャラクシーフライトへ搭乗した時の様子が彷彿とさせられました。

そして58番搭乗口へとやってきました。出発時刻まであと30分程あったのですが、やはり搭乗口前にいらっしゃる人の数はまばらでした。混雑している場所が好きではないので、これはこれでいいのですが、他のどの便の搭乗口もこのような状況だったので、やはり非日常感が漂っていました。

元バニラエアの機内に初潜入

17:50頃に搭乗開始のアナウンスが入りました。今回も客層を観察しようと最後の方に搭乗したのですが、ビジネスマン風の方が多い印象を受けました。

今回の搭乗機は、冒頭の通りAirbus A320(JA01VA)。ANAでは、A320シリーズをA320ceo/neo、A321ceo/neoの4タイプ保有しており、今回はA320ceoへの搭乗。ceoはCurrent Engine Optionの頭文字をとったもので、ざっくりいうと従来型のエンジンを搭載しているA320ということになります。

シートポケットにもA320(32G)と書かれた安全のしおりが用意されています。基本的にA320という飛行機の型自体は、A320ceoだろうとA320neoだろうと、変わらないとは思うのですが、同一のものとはならなかったようです。もしかしたら、若干異なる点があるのかもしれませんが、不用意にペタペタ触れまくるのもどうかと思い、見ずに終わりました。この点は再履修案件ですね。

何故これほどまでに「32G」に興味を抱いていたかと言いますと、私、まだLCCに乗ったことが1度もないのです。地元の秋田空港にLCCが就航していないことに加え、勝手の知らない航空会社に乗るのはやや抵抗があります…

いつか1度は乗ってみたい高密度配列のA320でしたが、ANAがバニラエア時代のままA320を運航してくれるのであれば話は早い、ANAに乗りながらLCCのキャビンを体験することができるのはなかなか画期的でした。と、このような理由で「32G」を楽しみにしているニッチな航空オタクもいるということをお伝えします(笑)

実際に機内に入ってみると、180席というLCC仕様の座席数であることのバイアスがかかっていることに加え、座席の色が黒いせいか、機内は空いているにも関わらず、心なしか混雑しているような印象さえ受けました。シートピッチの狭さも気になると言えば気になり、窓側の座席には入りづらかったです。しかし、737-500とかこんな感じだったよなあ…と思うとそこまで毛嫌いする必要もないのかな、といったところです。

テーブルは可もなく不可もなくと言ったところ。バニラエア時代には、機内販売で積極的に購入されていたであろう軽食類をこのテーブルに広げて食べるということを行っていたと思われますが、ANAでは、乗客が持ち込まない限りこのテーブルを使って食事をするということもありません。

雨の羽田空港を出発

ざっと座席周りについて様々写真を撮影していると、すぐにドアが閉まりました。定刻18:15の13分前、18:02にドアが閉まり、18:09にプッシュバック開始となりました。前便に続いて今回も定刻より早めの出発となりました。搭乗時の機内アナウンスでは、「Wi-Fiによるインターネット接続は行えないものの、機内でのみ楽しめる独自のコンテンツは用意している」と伝えられました。元バニラエアの機体だけあり、座席にオーディオの装備がないことは知っていましたが、Q400のように、Wi-Fi向けのコンテンツがあるのは知りませんでした。

お隣の57番スポットから出発した18:00発新千歳行きのANA75便に続いて滑走路へと向かいます。第2ターミナルの方を見ると、3月29日の夏ダイヤ開始に合わせ運用が始まる国際線エリアの明るい様子が見て取れました。本来であれば、華々しく開業する予定だったであろう国際線エリアですが、諸事情により国際線の大幅減便措置が取られているため、なんとも寂しい開業を迎えることになりそうです…

2020/3/14 NH407 離陸

C-2誘導路からRWY34Rへとline up、18:26に離陸となりました。離陸後はすぐに雲に突っ込み、景色とはおさらばです。その後は上昇中、洗濯機の中に突っ込まされたような揺れが続きました。約2時間前にも揺れながら通過した空域でしたが、予想通り、いや、予想以上に揺れました。時々、飛行機の揺れで悲鳴を上げている動画がネットにアップされていますが、まだ悲鳴を聞いたことはないんですよねえ。少なくとも、人によっては悲鳴が出てもおかしくないような揺れでした(笑)

窓からの景色に着目したい「32G」

5分程続いた揺れもしばらくすると収まり、18:35にはベルトサインが消えました。飛行機はちょうど筑波山の西を飛行中。この時点で高度は21,000feet、まだまだ高度を稼ぐようで元気のよいエンジン音が聞こえてきました。

このA320(32G)、上述の通り、機内エンターテインメントがありません。自前のスマートフォンでANAオリジナルのプログラムを楽しむことができるのですが、イアホンを持参するのを忘れてしまったっため、とうとうなにもすることがありません。ひたすらエンジン音を聞くのみです。

ふと、セパレートで空いていた反対側の窓を覗いてみると、綺麗な夕焼けに染まる水平線が見えました。

結局反対側に移動して撮影しました(笑)

あまり質を求めていないため、少々の写り込みは気にしないのですが、今回ばかりはちょっと邪魔でしたね。機内から見る水平線はやはり綺麗です。夕方の便に搭乗すれば必ず見ることができる景色というわけではなく、また見えていたとしても、今回のように太陽の反対側の席に陣取っており、かつこちら側の窓側席に他の方がいらっしゃった場合は写真の撮影ができませんので、こればかりは空いている便の恩恵ということができると思います。

往路では20,000feetでの巡航で、終始雲の上へ抜けることはありませんでしたが、復路である今回は31,000feetまで上昇したおかげで見ることができたとも言えます。下に見える雲の様子を見る限り、20,000feet台前半ではやはり雲を抜けることはできなかったように見えますね。

機齢相応、綺麗なラバトリー

折角ですのでラバトリーも見物しました。同じA320シリーズでもラバトリーはそれぞれ異なり、往路で搭乗したA321のそれとはまったくの別物でした。ラバトリーの違いを最も認識しやすいのは、蛇口部分なのですが、この蛇口は以前搭乗したJ-AirのE170と同じでしたね。そういえば、そのE170搭乗時にも、途中で夕日に照らされた水平線を見て、洗濯機のように揺らされた記憶があります。

こちらのA320は、2013年の11月に導入された比較的新しいA320ですので、ラバトリーも清潔に保たれていました。

元バニラエアの飛行機ということで、リクライニングはどれ程動くのだろうか、と着陸態勢に入る前に全開で倒してみました。一先ず背もたれ1個分は倒れるようです。今回は、殆ど乗客がいなかったため、特に誰に気を遣わずともリクライニングをつかうことができましたが、LCCの搭乗率は基本的に高いでしょうし、簡単にリクライニングを倒すということもできなさそうです。バニラエア時代にどれ程の方がこのリクライニングボタンを押して寛いでおいていたのか、気になります。

忍者レフ代わりの毛布の代わりに…

18:56、鳥海山の東に差し掛かろうかというところでベルトサインが点灯、着陸態勢に入りました。

その後10分で秋田県大仙市大曲が右手に見えてきました。花火で有名な大曲、毎年8月最終土曜日には、全国花火競技大会が行われ、全国から多くの観光客の方が訪れます。新型コロナウイルスの経過次第では、影響を受けてしまうかもしれませんが、それまでに収束できることを願うばかりです。因みに、花火競技会開催中は、この付近からも花火を見ることができるようです。

上の写真の右下が若干黄色くなっているのは、機内照明の反射を避けるために「東京ばな奈」の袋を投入したため。プレミアムクラス同様普通席でも毛布の提供が中止となっていたため、毛布を忍者レフ代わりに使っている勢としては、代用品の手配が求められるわけですが、丁度よく大量入荷した東京ばな奈にはたくさんの袋がついてきましたので使ったわけです。

新型コロナウイルスでは、観光業やそれに伴う産業を中心に大きく影響が出ており、観光客などが顧客となるお土産品もおそらくは、経営に影響が出ていると予想されます。なんとか持ちこたえていただきたいですね。

無事帰還

19:11、秋田空港RWY28に着陸しました。飛行時間は45分、この日の午後に秋田空港を離陸してから着陸するまでの時間は3時間23分でした。

着陸し、スポットへ向かう途中でCAさんから「このような状況の中、ご搭乗いただきありがとうございました」とのアナウンスが入りました。Twitterでも、スカイマークの地上スタッフさんが、出発便を見送る際に同様のメッセージを書いた横断幕を持って見送られているということが話題となっていましたが、こういった事態の際には、乗客も乗員もスタッフもお互い様です。

19:16、秋田空港の3番スポットに帰ってきました。定刻では19:20の到着のところ、4分の早着です。今回も例外なく、早着した上に降機もスムーズ、最後の方に降機したのですが列が殆ど詰まるということもありませんでした。

新型コロナウイルス対策として、機内誌は希望者のみへの配布となっていたため、それだけ頂き降機しました。その際にCAさんに搭乗者数を尋ねたところ、「少なくて、36名なんですよ~」と返ってきました。定員180人の飛行機に36人ですから、搭乗率は20%です。土曜日の夕方~夜間という利用者数が少ないと思われる便を敢えて狙って搭乗したわけですが、これほど少ないとは思いませんでした。国際線ではさらに少ない人数で飛ばしている便もあるとネットで見ましたので、相変わらず厳しい状況が続いていることが分かります。

そうして到着ロビーへ出ました。乗客の少なさから、ターンテーブルで荷物を受け取ろうとする方も数える程でした。

到着便の案内板にも表示されていた「欠航」の文字、既に3月下旬には新たに4月下旬までの運休計画が発表され、国内線でも暫くは間引き運航が続くことになりそうです。

最後に搭乗機をデッキで撮影しました。当初は2020年に入ってからの就航が予定されていた「32G」ですが、2019年中にANA機材として再デビューを果たしていました。それ以来、1度も撮影していなかったため、今回がANAの塗装になってから初めての撮影となりました。外見上の見分け方は…まあ航空ファンの方であればすぐつきますよね(笑)

A320と言えば、同サイズの737に対するアドバンテージとして、貨物スペースにコンテナを搭載できることが挙げられます。しかし、この「32G」は、コンテナを搭載できない仕様となっており、737同様カーゴドアには、ベルトローダーが接続しています。この点は、外見上でも元LCCの機材らしさが表れているのではないかと思います。

当初は、新幹線や他の航空会社と競合しない羽田発着路線にのみ投入されるスケジュールが発表され、物議を醸した「32G」ですが、実際には、羽田ー秋田、高松、徳島線など他社との競合が存在する路線にも投入されています。今後も機材変更などで様々な空港に姿を見せそうですので、特にまだLCCに乗ったことがないという方は乗ってみてもいいのではないか、と思います(笑)

総括

バニラエア時代のJA01VA

シートピッチが狭くとも、空いている便なら気にならない

機内エンターテイメントがない分、「飛行」を存分に味わうことができる

以上が「32G」に搭乗した感想です。尚、諸事情により、普通席のドリンクサービスが中止されていたため、一層LCC感が出ていたのではないか、ということも記しておきます。不特定多数の方が触れるものを撤去したりすることは、乗客、乗員のことを考えると至極真っ当な措置であるように思いますし、広義で企業の社会的責任と捉えることもできるように思います。そして、大変な状況の中、安全運航に徹してくださるスタッフの皆様には頭が上がりません。新型コロナウイルスによる影響の早期収束をお祈り申し上げます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

(※記事の一部でANA国内線シートマップ、「登録記号から見た日本の旅客機」イカロス出版 を参照)

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