また名機が日本から去っていきます
1992年から四半世紀以上にわたって国内で活躍している双発プロペラ機のサーブ340B。
JALグループで、主にコミューター路線を担当するJACとHACによって運航されてきたこの機体。全盛期は、両社合わせて14機が国内線で活躍していましたが、機体の老朽化には逆らえず、2021年12月26日で日本の空から引退することになりました。
個人的にはそこまで縁のある飛行機ではありませんでしたが、旧JASグループを知る国内最後の機体ということで、引退前にフライトを楽しむことにしました。
日本国内でのサーブ340B
サーブ340Bは、スウェーデンの航空機メーカーであるSaab社が製造している機体です。初飛行は、1983年ということで、40年近く前から就航している飛行機なんですね。
日本で初めて就航したのは、前述のとおり1992年。2002年にJALと合併した、日本エアシステム、JASの子会社で、鹿児島の離島や西日本を中心にプロペラ機の運航を担っていたJACによって運航されました。その後、1998年にHACでも3機が導入され、今に至ります。
36名という定員、1,200mの滑走路でも運用可能という性能を持っているサーブ340Bは、鹿児島ー松山線、函館ー三沢線といったローカルtoローカルの路線を任されたり、兵庫県の北部にある但馬空港、鹿児島県の離島、喜界島にある喜界島空港では、主力機として活躍したりと、その性能をいかんなく発揮してきました。
交通の便の向上、大事な生活の足、サーブ340Bが果たした役割は計り知れません。
道内航路を飛びます
2021年11月某日。釧路空港にやってきました。
今回は、釧路ー札幌(丘珠)線で最初で最後のHAC’sサーブ搭乗をキメます。新千歳空港以外の道内の空港を訪れるのは、これが初めて。ましてや道東もこれが初訪問だったのですが、羽田空港から乗ってきたANA741便から50分の乗り継ぎですぐに釧路を後にするスケジュールです。
また今度、ゆっくり来たいと思います。(フラグではないようにしたいです)
エセ4連休の最終日、混雑する羽田線の間に挟まれているのが、これから搭乗するJAL2862便。保安検査場の列に航空需要の復活の兆しを感じつつ、釧路空港の雰囲気を目に焼き付けていました。
アルファベットがつけられた釧路空港の搭乗口。今回は、搭乗口Aからの出発です。釧路が初なら目的地の丘珠も初訪問。出発地、到着地さらには搭乗機まで初めましてな初尽くしのフライトが出来上がっています。
歩いて飛行機へ
搭乗開始のアナウンスで、飛行機へと向かいます。同じプロペラ機のQ400であれば、ボーディングブリッジから直接搭乗するのも珍しくなくなりましたが、サーブは徒歩で搭乗です。
地上から見上げる飛行機、小型機と呼ばれるBoeing 737やAirbus A320も地上からだと大きく感じるものですが、サーブに関してはそれは当てはまりませんでした。今やJALグループの中では最も定員が少ない飛行機となったサーブ340B、鶴丸の鶴のほうがたくましく見えた気がします(それはない)
胴体後部の「HAC」のロゴは大きく迫力を感じましたが…(笑)
なお、今回の搭乗機は、ご覧のとおり「JA02HC」。1998年6月に導入された機体で、HACに最後まで残ったサーブ340Bの1機です。
機内へ潜入
華奢な内蔵エアステアを上り、「花のワルツ」が流れる機内へと入ります。飛行機というよりもマイクロバスという雰囲気さえ感じましたが、これが逆に「味」なのかもしれません。
アサインした座席は主翼後方の10Aです。(写真は最後尾の11Aのもの)座席は1-2配列のサーブ340B、A側席は1人掛けです。狭いイメージのあるプロペラ機ですが、足元も広々としておりビジネスバックの収納もラクチンでした。
こちらは、JALのHPに掲載されているサーブ340Bのシートマップです。ラバトリーは前方に1か所、そして全席リクライニング不可となっています。
席に着き窓の外を眺めると意外にも主翼は大きく見えました。HACが運用しているサーブ340Bは、主翼の長さを延長したタイプであるため、一層そのように感じるのかもしれません。もっとも、比較対象の機体には搭乗したことがないのですが(笑)
保安検査場の混雑で、定刻を過ぎた13:58にドアが閉まったものの、そそくさと出発できるのが、プロペラ機の利点です。ドアが閉まった1分後にはエンジンスタート。No.2エンジンに続いてNo.1エンジンも快調に始動していきます。とにかくいい音です。ちなみにエンジンは、ゼネラルエレクトリック製のCT7-9B型が搭載されています。
「飛行機」の本質を体感
小回りの良さ、機敏な動き、これがプロペラ機の特徴です。先に出発準備を整えてプッシュバックしていたANAの737を差し置いて、一足先に誘導路へと出ていきました。
そして、誘導路T2から滑走路へ。前述の737が誘導路をふさいでいるため、滑走路を逆走して離陸位置まで移動します。離陸前のウォーミングアップよろしく、滑走路を駆け抜けくるりと転回。RWY35から北へ向けて離陸します。
やや強風気味な中、そんなものをもろともせずに上昇、と言いたいところですが、離陸直後から何度も晴天乱気流に巻き込まれるかの如く下方向へストンと落とされる揺れに抗いながら、釧路空港を後にしました。これまで何度も飛行機に乗ってきましたが、飛行機の本質について改めて考えさせられました。
乗っけからいきなりハードモードだぞ…と思って機内を見渡すと、満席のキャビンは平穏そのもの。皆さん慣れがすごいです(笑)釧路空港の離陸は14:06。ここから約45分の空の旅です。
釧路から札幌までは、航空路V2が一直線に通っています。それに倣って離陸後すぐに左へ旋回した飛行機からは、離陸してきた釧路空港を見渡すことができました。
滑走路の全長は2,500m。夏場を中心に濃霧が発生しやすいことから、山側のRWY17にはILSのカテゴリー3も整備されている、いわゆるぐう有能な空港です。
つかの間の安定、そして揺れ
上昇に転じると、激しい揺れは息をひそめ、安定した飛行が始まりました。揺れがなければ、乗り心地はほかの旅客機と大差がありません。心地よいプロペラサウンドをBGMにまったりとした時間が流れていきました。巡航高度は18,000feetとのこと。
満席のキャビンで、機内の撮影は満足にできませんでしたが、安全のしおりだけはしっかり押さえておきました。記載内容そのものは、他の機種と大差ないですが、表面に描かれたイラストと「SAAB340B」の文字が、サーブに乗っていることを改めて実感させてくれます。
北海道広しと言えども、飛行機にかかればすぐに移動できてしまいます。
離陸から23分が過ぎた14:29、コックピットから降下を始めたとのアナウンスが入りました。「下層を中心に気流が乱れており、ところどころ大きな揺れも予想しています」という声と同時に雲へ突っ込む我がサーブ。
離陸の時に散々揺らされたため、ある程度心の準備はできていましたが、果たしてどうなることやら…
道内のプチ観光も楽しめます
分厚い雲をかき分けるように降下していくと、やがて下界の様子が見えてきました。夕張山地の脇にあるシューパロ湖と思われます。
北海道の地理に疎いため、札幌まで陸地の上空をまっすぐ飛んでいくと頭では理解していましたが、雲の中に入ってしまうともうお手上げです。最近は、国内線の旅客機でもシートモニターやWi-Fiを装備する機材が増えつつありますが、5年ほど前までは機窓からの風景と、機内誌のマップと、自身の地理スキルで場所を特定していたのが懐かしいです。
こちらは、別日の釧路ー丘珠線の航路をFlightraderから引用したものです。航路上の天候やその他もろもろの理由により、毎回必ずこの経路を飛ぶわけではありませんが、釧路から札幌までほぼ一直線に飛行していることがわかります。
終始天候に恵まれた場合は、上空から北海道の雄大な景色を堪能することができそうです。
だいぶ高度が下がってからも、ところどころ雲に捕まっては揺れるという状況がしばらく続きました。石狩平野の平地が見えてきてからも揺れる揺れる。もはや風に煽られているだけなのか、単純に揺れているのか、自分が揺れているのか、よくわかりません(笑)
飛行機はその後、岩見沢市や江別市の上空を通過して、目的地の札幌上空へと入っていきました。相変わらず揺れは続いていますが、今までに感じたことのない揺れ方に体が慣れてきたのか、自然と笑みがこぼれ始めてきました。マスクがあって良かったです。揺れながらニヤニヤしているなんてただの変人ですからね。
地上に帰ってきました
丘珠空港への予習を一切せずにここまでやって来て、どのように着陸するのかも情報がないまま、ひたすらサーブに身を任せてきましたが、しばらくすると風に煽られながら右旋回するような動きを始めました。
機械と言うよりも生き物のような印象さえ受ける飛び方だなぁ…と思っていると、、、
丘珠空港へ着陸していました。「着陸するぞ」ではなく、落葉した木の葉が地面に舞い降りる。という表現が正しいと自分でこの文章を作っていて思ったところです。 なお、着陸時刻は14:51、飛行時間は45分でした。
滑走路をバケートし、タキシングすること3分。3番スポットに到着しました。釧路空港での出発遅れをそのまま引きずり、定刻よりも9分遅れての到着。短距離路線だけあり、遅延の回復は難しかったようです。
某ウイルスの蔓延のため、すっかりお馴染みになった「分散降機」。定員が36名のサーブ340Bでも例外なく行われます。最後に最後尾の3人掛けの席を撮影し機内を後にしました。
飛行機を降りると徒歩でターミナルまで向かうのが丘珠流。上空で散々煽られたのも納得な強風の中てくてく歩いて暖かいターミナル館内を目指しました。その道中、ここまでお世話になったサーブを撮影したのは言うまでもありません。
マイクロバスのような機内から、地方の駅のようなターミナルへやってきました。到着便のごあんないには、「函館」と「釧路」の2地点のみ。どローカルな雰囲気がむんむん漂うこの場所が200万都市のど真ん中にある空港の中というんですから、ギャップに萌えてしまいます。
最後に
釧路から札幌までの50分弱、短い飛行時間ではありましたが、サーブ340Bを楽しむことができました。主要都市を行き来する大型機がもしかしたら飛行機の中では花形なのかもしれませんが、北海道のそれぞれの就航地から、札幌までを最速で結ぶHACのサーブ340Bは、各地で花形同然の存在だったに違いありません。
引退まで残り1か月を切りました。HACのサーブが迎える最後の冬、その雄姿を目に焼き付けましょう。
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